( 2014.08.18 ジャーナリスト:門田隆将氏 )
【吉田調書】



 東京電力福島第1原発事故で現場指揮を執った吉田昌郎所長に対する 「吉田調書」 について、吉田氏らを取材したジャーナリスト、門田隆将氏が寄稿した。


 産経新聞が入手した 「吉田調書( 聴取結果書 )」 を読んで、吉田昌郎所長と現場の職員たちの命をかけた闘いのすさまじさに改めて心を動かされた。 「本当に感動したのは、みんな現場に行こうとするわけです」 と、危機的な状況で現場に向かう職員たちを吉田氏は褒めたたえている。

 いかに現場が事態を収束させようと、そして故郷、ひいては日本を救おうと頑張ったのかがよくわかる内容だ。

 私は拙著 『死のふちを見た男』 の取材で、吉田氏や現場の職員たちに数多くインタビューしている。 どんな闘いが繰り広げられたかは取材を通じて知っていたが、その時のことを思い出した。

 また、

 

 全員撤退問題については、 「誰が撤退と言ったのか」 「使わないです。 “撤退” みたいな言葉は」 と、激しい口調で吉田氏が反発しているのも印象的だ。 吉田氏がいかにこの問題に大きな怒りを持ち、また当時の民主党政権、あるいは東電本店と闘いながら、踏ん張ったかが伝わってくる。

 それにしても 調退退

 逆に吉田氏は、 「関係ない人間( 筆者注=その時、1F〈 福島第1原発 〉に残っていた現場以外の多くの職員たち )は退避させますからということを言っただけです」 「2F( 福島第2原発 )まで退避させようとバスを手配したんです」 「バスで退避させました。 2Fの方に」 と、くり返し述べている。

 つまり、職員の9割は吉田所長の命令に “従って” 2Fに退避しており、朝日の言う “命令に違反” した部分など、まったく出てこない。

 だが、

 

 

( 2014.08.18 )
朝日新聞の 「吉田調書」 報道

朝日新聞の報道は 「所長命令に違反し、所員の9割が原発撤退」

 朝日新聞は、東京電力福島第1原発の所長だった吉田昌郎氏が、政府の事故調査・検証委員会の調べに答えた非公開の聴取結果書を入手し、5月20日付朝刊でその内容を報じた。

 「所長命令に違反 原発撤退」 を大見出しにした上で、吉田調書などを根拠に 「吉田氏の待機命令に違反し、所員の9割が福島第2原発へ撤退していた」 と報道した。 撤退した人の中には事故対応を指揮するはずのグループマネジャーと呼ばれる部課長級の社員もいたことから、 「その後、放射線量は急上昇しており、事故対応が不十分になった可能性がある。 東電はこの命令違反による現場離脱を3年以上伏せてきた」 と指摘した。

 その後も、 「吉田氏、非常冷却で誤対応」 「ドライベント、福島第1原発3号機で準備 大量被曝の恐れ」 など、吉田調書に基づいた続報を掲載。 社説では 「吉田調書は最も貴重な国民の財産」 として、公開を主張している。

 また、朝日新聞のホームページでは、吉田調書の要約版を日本語と英語で公開( 会員登録が必要 )している。

朝日新聞社広報部のコメント:吉田氏が命じたのは、高線量の場所から一時退避し、すぐに現場に戻れる第1原発構内での待機だったことは、記事で示した通りです。 10キロ離れた第2原発への撤退は命令に違反した行為です。 一部週刊誌の 『虚報』 『ウソ』 などの報道は、朝日新聞社の名誉と信用を著しく毀損しています 厳重に抗議するとともに、訂正と謝罪の記事の掲載を求めています。

( 2014.08.18 )
【吉田調書】 朝日報道、各国で引用



 外国の有力メディアは、 「吉田調書」 に関する朝日新聞の記事を引用し、相次いで報道した。 韓国のセウォル号事故と同一視する報道もあり、 「有事に逃げ出した作業員」 という印象が植え付けられている。

 米紙ニューヨーク・タイムズ( いずれも電子版 )は5月20日、 「パニックになった作業員が福島第1原発から逃げ出した」 と報じた。 「朝日新聞によると」 という形で、記事では第1原発所員の第2原発への退避を 「命令違反」 だと報じている。

 英紙ガーディアンは5月21日付で 「『 フクシマ・フィフティーズ( 福島の50人 )』 と呼ばれたわずかな “戦闘員” が原発に残り、ヒーローとして称えられた。 しかし、朝日新聞が明らかにしたように650人が別の原発に逃げたのだ」 と記した。

 オーストラリアの有力紙オーストラリアンも 「福島のヒーローは、実は怖くて逃げた」 と見出しにした上で、 「事故に対して自らを犠牲にし果敢に闘った 『フクシマ・フィフティーズ』 として有名になったが、全く異なる恥ずべき物語が明らかになった」 と報じた。

 韓国紙・国民日報は 「現場責任者の命令を破って脱出したという主張が提起されて、日本版の “セウォル号事件” として注目されている」 と報道。 韓国で4月に起きた旅客船沈没事故で、船長が真っ先に逃げたことと同一視している。





( 2014.08.28 )

  調


 日本中がメルトダウンの恐怖に戦慄した3年前のあの日、福島第一原発に最後までとどまって大惨事を防いだ人々がいたことを国民は忘れない。 文字通り命を賭して事故と闘った人々は海外メディアでもその献身的行為を讃えられた。

 だが、朝日新聞は彼らの名誉を根底から覆してしまった。 5月20日朝刊1面で 〈 所長命令に違反 原発撤退 〉 の大見出しを掲げ、
〈東日本大震災4日後の11年3月15日朝、第一原発にいた所員の9割にあたる約650人が吉田氏の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発へ撤退していた。 その後、放射線量は急上昇しており、事故対応が不十分になった可能性がある。 東電はこの命令違反による現場離脱を3年以上伏せてきた 〉
 そう “スクープ” した。

 朝日が報道の根拠にしたのは、事故対応の現地責任者だった吉田昌郎・東電福島第一原発所長( 昨年7月死去 )が政府事故調査委員会に語った非公開の調書( 吉田調書 )だ。 書を入手した朝日は、吉田氏の証言として650人があたかも持ち場を放棄して逃げ出したかのように書いたのだ それが世界にどのようのバラ撒かれたのか。
〈2011年、パニックに陥った作業員たちは命令を無視して福島原発から逃げ去っていた〉( 米ニューヨークタイムズ )、
〈危機の最中に福島原発の作業員が逃走と日本の新聞が報じる〉( 英BBC )、
〈福島の “ヒーローたち” は実は怖くなって逃げ出していた〉( 豪オーストラリアン )
 朝日新聞が 「吉田調書」 の “スクープ” を報じた後、それを記事にした海外主要メディアの見出しだ。 多くは朝日の記事をそのまま写したもので独自取材はない。 それゆえ朝日の言い分がそのまま世界に垂れ流された。

 韓国ではさらに過激な見出しが躍る。
〈福島原発事故は日本版セウォル号だった! 職員90%が無断脱出 … 初期対応できず〉( 週刊誌「エコノミックレビュー」 )、
〈福島事故もセウォル号の船員たちのように …〉( ソウル新聞 )、
〈日本版セウォル号 … 福島事故時に職員ら命令無視して原発から脱出〉( 国民日報 )

 





( 2014.09.26 )
!?
 


 なんの話かといえば、米国のシリア空爆をめぐる報道である。 米国がシリア空爆を正当化した根拠について、朝日の報道はとても正確とは言えない。 朝日は 「米国は集団的自衛権行使に基づいてシリアを空爆した」 と印象付けようとしているが、事実は違うのである。


書き出しに 「集団的自衛権などを行使」


朝日新聞9月25日夕刊一面より
 まず朝日の報道ぶりをみよう。 朝日は空爆開始直後の9月24日夕刊で、パワー国連大使が潘基文国連大使に送った書簡の内容について 「『 空爆は自衛権行使』 シリア領攻撃 米が国連に文書」 という見出しで次のように報じた。
〈 ( 書簡は )テロ組織の攻撃にさらされているイラクの要請を受けた米国が、他国が攻撃された場合に反撃する 「集団的自衛権」 などを行使したという説明だ 〉
 書き出しのこの部分だけ読むと 「そうか、米国は集団的自衛権に基づいてシリア攻撃をしたのか」 と理解してしまう。 本文はどうかというと、次のように書いている。
〈 …… シリアのアサド政権について、自国の領土を過激派がイラク攻撃の拠点に使っているにもかかわらず、攻撃を効果的に防ぐ 「能力も意思もない」 と指摘。 この場合、攻撃下にあるイラクは、国連憲章51条が定める自衛権に基づき自国を防衛できると説明。 自国の脅威にもなっている米国も自衛権を行使した、とした 〉
 お分かりのように、本文では 「米国は自衛権を行使した」 と書いていて、集団的自衛権という言葉は出てこない。 記事には 「米国が国連に出した文書の骨子」 という横書きのメモが付いているが、そちらにも集団的自衛権という言葉はない。


翌日朝刊でも 「シリア空爆は集団的自衛権行使」 と報道


右がアメリカのサマンサ・パワー国連大使
 同じ24日夕刊で読売新聞はどう報じていたかといえば 「シリア空爆 米 『自衛権を行使』 国連総長、一定の理解」 という見出しで本文はこう書いている。
〈 国連加盟国が攻撃を受けた際の個別的・集団的自衛権を定めた国連憲章51条に触れ、 「今回のように、脅威が存在する国が、自国領土を( テロ組織によって )使われることを防ぐことができず、その意思もない時には、加盟国は自衛できる」 とした 〉
 これを読んで、書簡が国連憲章51条に言及していたことが分かる。 この時点で私は頭が 「? ?」 だった。 こんな重要な問題で、本当に朝日が書いたように 「米国は集団的自衛権の行使だ」 と明言したのだろうか、と思った。 だったら、読売はなぜそう書かないのか、と思った。

 そのうえで翌25日の朝日朝刊を開いてみると、問題の論点についての記事は 「シリア空爆、自衛権を主張」 という見出しで本文はこう書いていた。
〈 オバマ氏の国連演説に先立ち、米国のパワー国連大使は23日、 「イスラム国」 への空爆をシリア領内で実施したことについて、 「国連憲章51条に基づく自衛権行使」 だとする文書を国連の潘基文事務総長に提出した。
 …… 文書によると、 「イスラム国」 の攻撃にさらされているイラクから空爆を主導するよう要請を受けたとして、他国が攻撃された場合に反撃する 「集団的自衛権」 を行使したとしている 〉
 ここでも前日夕刊の線を維持している。 前段は国連憲章51条の行使と読売夕刊と同様に書いているが、後段の 「集団的自衛権を行使した」 というくだりは記者の地の文章だ。 これは本当だろうか。 本当なら、米国は集団的自衛権の行使でシリアを空爆したという話になる。


事実は国連大使の書簡を読めば明らか


パワー国連大使の書簡
 事実を確認するには、パワー国連大使の書簡そのものを読めばいい。 検索すると15分もかからず、すぐ見つかった。 書簡は潘基文事務総長に送られた後、安全保障理事会のメンバー15ヵ国に回覧された。 国連憲章で加盟国が51条の自衛権に基づく軍事行動を起こした場合は、直ちに安保理に報告するのを義務付けられているからだ。 各国に出回っているのだから、ちょっと取材すれば入手できるのだろう。

 全文は以下のとおりである( この全文は http://www.businessinsider.com/the-syria-strikes-and-international-law-2014-9 というサイトでも読める )。

 お読みいただければ、あきらかなように、書簡は次のように書いている。
〈 今回のケースのように、脅威が存在する国が( 注:イスラム国による )こうした攻撃で自国領土を守ることもできず、また意思もないときに、国家は国連憲章51条に反映されているように、個別的かつ集団的自衛権の固有の権利に従って自衛することが可能でなければならない 〉
 パワー国連大使は 「集団的自衛権に基づいて空爆した」 とは言っていない。 「憲章51条の個別的かつ集団的自衛権に基づいて自衛する権利がある」 と主張しているのだ。 この部分は憲章51条そのものの言い回しを引用している。 51条は個別的自衛権と集団的自衛権を明白に区別していない。 両者をセットで 「固有の権利」 としているのだ( http://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/ )。


「吉田調書報道」 と同じ 「ねじ曲げ」 ではないか

 ところが、朝日はそこから集団的自衛権だけを記者が抜き出して報じたのである。 あえて個別的自衛権の部分を落としたと言ってもいい。 それだけではない。 朝日は個別的自衛権について先の朝刊でどう書いたかといえば、次のようだ。
〈 米国人記者2人が 「イスラム国」 に殺されたことや、シリアにいるアルカイダ系武装組織 「ホラサン・グループ」 の米国などへのテロ計画が最終段階に入っていたとの情報を踏まえ、米国は自国民を守る 「個別的な自衛権」 を行使したと主張している 〉
 これも書簡の原文に当たると、次のようになる。 最後の部分だ。
〈 加えて米国は、ホラサン・グループとして知られるシリアのアルカイダ系組織が米国や友好国、同盟国に与えている脅威に対処するためにシリア領内で軍事行動を始めた 〉
 ここで 「個別的な自衛権を行使した」 などという説明はない。 ようするに、米国はあくまで憲章51条にある固有の権利として個別的かつ集団的自衛権に沿って軍事力を行使した、という立場を述べているにすぎない。 べつに 「この部分は集団的自衛権で、あの部分は個別的自衛権で」 などとは説明していない。

 そういう説明は朝日が勝手に付け加えたのである。 これは吉田調書報道と同じような 「ねじ曲げ」 ではないか。

 こういう勝手な解釈に基づく報道は慰安婦問題や原発事故の吉田調書の訂正謝罪でいやというほど懲りたはずだ。 にもかかわらず、まだやっている。 これを単なる書き飛ばし記事として見逃せないのは 「イラク空爆の根拠」 は国際社会で大きな論点になっているからだ。

 ロシアやイランは安保理決議がなければ空爆は国際法違反という立場である。 米国は安保理に空爆容認を求めれば、常任理事国であるロシアが反対するのは分かっている。 だからこそ、そんな安保理決議手続は踏まず、憲章51条に基づく自衛権の発動という形で空爆を実行した。


「集団的自衛権 = 悪」 のスタンスありき?

 空爆に賛成であれ反対であれ、まずは米国の主張と51条の趣旨を正確に理解することが、今回の事態を理解する第1歩である。 ところが出発点で歪んだ報道をされてしまえば、全体構造の理解が間違ってしまうのだ。 朝日はいったい問題の重要性をどう考えているのだろうか。

 朝日がなぜ 「米国の空爆は集団的自衛権行使」 と強調したかといえば、読者に 「ほら、だから集団的自衛権というのは怖いんですよ」 と宣伝したかったからではないか。 集団的自衛権=悪というスタンスが先にある。 だから絶好の事例として 「それで米国は空爆しました。 空爆は悪です。 だから集団的自衛権も悪です」 と強調したかった。 私はそう思う。

 個別的自衛権と集団的自衛権の違いについていえば、政党間でも学者間でも実は意見が分かれている。 両者は実際には重なりあう部分があるから、厳密に区別しようとしても無理だという意見もある。 ここで議論に深く立ち入る余裕はないが、そういう意見の違いがあるからこそ、報道は安易に 「これは個別的、あれは集団的」 などと決めつけるのに慎重であるべきではないのか。

 米国はそんな意見の違いも承知しているからこそ、あえて個別的と集団的自衛権を併記している51条の言い回しをそのまま使った、と解釈することもできる。 むしろ、そういう立場こそが国際常識とさえ言える。 そういう微妙さを理解せずに、記者が勝手に自分の判断を混入させて記事を書けば、読者はますます国際常識からも真実からも遠ざかってしまう。 朝日の病根は、ますます深いと言わざるをえない。





( 2014.10.01 )

 


 テレビ朝日のニュース番組 「報道ステーション」 が、九州電力川内せんだい原発の安全審査に関して誤った報道をした問題で、テレビ朝日の吉田慎一社長は30日の定例記者会見で 「あってはならないこと。 全面的におわびする」 と謝罪した。

 同社は再発防止策と関係者の処分を検討しているが、識者からは 「検証が不十分」 との声も上がる。


「ミス」 強調

 問題となったのは9月10日夜の放送。 この日、原子力規制委員会が川内原発1、2号機について、安全審査の 「合格証」 にあたる審査書を決定し、田中俊一委員長が記者会見した。 この決定で、同原発は再稼働の条件をクリアした。

 同番組は、田中委員長が会見で、周辺の火山に対する安全審査基準の修正を示唆したと報じ、ナレーションで 「修正した正しい基準で再審査すべきだ」 と批判した。 ところが、田中委員長が修正を示唆したのは、実際には火山ではなく、竜巻の審査基準だった。

 さらに同番組は、火山の審査基準に関する質問に対し、田中委員長がほとんど応じていたにもかかわらず、その大部分を省き、回答を拒んだように編集した

 吉田社長は30日の会見で、スタッフの取材メモが 「極めて不完全で、雑な省略があった」 ことが最大の原因と説明。 放送されたVTRの内容をデスクがチェックしきれないなど、 「ミスが重なった」 と強調した。

 ただ、同番組は過去にも火山への備えが不十分だと主張しており、メディア論が専門の碓井広義・上智大教授は 「世論を反原発の方向へ誘導しようとしたと言われても仕方がない」 と指摘する。


検証 「不十分」

 放送翌日の11日、規制委事務局の原子力規制庁には 「田中委員長の受け答えはおかしい」 などの苦情が相次いだ。 規制庁は同日夕、テレビ朝日に 「事実誤認がある」 と説明を要求。 同社は社内調査を行い、12日夜の同番組で 古舘伊知郎キャスターが 「大きな間違いを犯した」 と謝罪したが、誤報の経緯や原因には言及しなかった。

 30日の会見で吉田社長は、再発防止策を講じるとともに、番組関係者らの処分も検討するとしたが、その結果を番組で伝えるかどうかは明言を避けた。 青山学院大の大石泰彦教授( メディア倫理 )は 「12日の放送を見ても、なぜ誤報が起きたのか分からなかった。 きちんと検証し、視聴者に伝えるべきだ」 と話している。